世界初、高配向性熱分解グラファイトの自己復元特性を確認しMEMSの長寿命化に貢献

世界初、高配向性熱分解グラファイトの自己復元特性を確認

三菱電機株式会社と国立大学法人京都大学は、ファンデルワールス(vdW)積層材料の一種である高配向性熱分解グラファイト(HOPG)が自己復元特性を持つことを世界で初めて確認したと発表しました。この成果は、vdW積層材料を用いた微小電気機械システム(MEMS)の長寿命化を実現し、MEMSを搭載するさまざまな機器の信頼性向上に貢献します。本研究は、2019年から続く京都大学との組織連携活動の一環として実施されました。

HOPG試験片と変形抵抗グラフ

研究の背景

近年、スマートフォンの高機能化や車載システムの高度化、ウェアラブルデバイスの普及に伴い、加速度センサーや圧力センサーなどのMEMSの需要が急速に拡大しています。これに伴い、長期間の振動や衝撃に耐える高い耐久性と軽量化が求められています。

軽量で柔軟かつ高い強度を持つvdW積層材料のMEMSへの適用が有望視されてきましたが、マイクロレベル試験片の作製や試験方法の確立が困難であったため、繰り返しの負荷に対する疲労特性はこれまで解明されていませんでした。

HOPGの自己復元特性を世界で初めて確認

三菱電機と京都大学は、HOPGのマイクロレベル試験片の作製に成功し、さらに試験片に繰り返し曲げ負荷を与えてせん断変形させる新たな試験方法を確立しました。この試験を通じて、HOPGの試験片が負荷回数の増加に伴い軟化するものの、時間の経過とともに硬さを含む機械的強度が回復する「自己復元特性」を持つことを、2026年1月27日現在、三菱電機株式会社の調査による世界初の発見として確認しました。

電子顕微鏡画像

この発見は、積層構造によって振動エネルギーを逃がす特性を持つHOPGを、振動による疲労を回復する機能を備えた振動吸収機構として利用できる可能性を示しています。この機構を応用することで、継続的な振動環境でも壊れにくく、信頼性の高い機器の開発に寄与することが期待されます。

本研究成果は、ダイヤモンドや関連材料に関する国際的な学術誌「Diamond and Related Materials」に採択されました。

変形抵抗の回復率

本研究では、HOPGのマイクロレベル試験片に繰り返し曲げ負荷を与える試験を実施しました。両方向に試験片を変形させる試験では、1,000回の負荷で変形抵抗が41%まで低下し軟らかくなった試験片が、7日間放置した結果、97%まで回復することが確認されました。この自己復元特性は、HOPGを素材とするMEMSの長寿命化を促進する可能性を秘めています。

自己復元特性の詳細

金属は繰り返し力を加えることで「金属疲労」を起こし劣化しますが、グラファイトのようなvdW積層材料は、強い原子結合を持つ薄いシート(グラフェン層)が非常に弱い力(vdW力)で何層も積み重なった特殊な構造をしています。

二次元材料、vdW結合、vdW積層の図解

この構造により、曲げられても層と層の間がすべり(層間すべり)を起こすため、折れて壊れることなく大きな変形を柔軟に吸収できます。

本研究では、非常に小さなHOPGの試験片に繰り返し負荷を与える試験を電子顕微鏡内で実施しました。一方向のみに変形させる「片振り」と、両方向に変形させる「両振り」の二つの方法で試験が行われました。

その結果、どちらの試験でも、負荷回数の増加に伴い試験片が軟らかくなる(変形抵抗が低下する)ことが明らかになりました。そして、この軟らかくなった状態が、時間の経過とともに回復するという自己復元特性が確認されました。片振り試験では、10,000回の負荷後38日間放置することで変形抵抗が91%まで回復し、両振り試験では、1,000回の負荷後7日間で97%までほぼ完全に回復しました。

せん断弾性係数と繰り返し数のグラフ

この自己復元特性は、vdW積層を構成するグラフェンが高強度かつ柔軟であることと、グラフェン同士の間にはたらくvdW相互作用が、層間すべりによって一度切断されても再び形成される特性を持つことに起因します。これらの結果により、HOPGを素材とするMEMSの長寿命化の促進と、MEMSを搭載する機器の信頼性向上に貢献します。

今後の展望

今回確認された自己復元特性をMEMSの振動吸収機構に応用し、長寿命で信頼性の高い振動吸収機構の開発を目指します。また、他のvdW積層材料についても自己復元特性の研究を深めるとともに、材料の変形によって電位が発生するvdW積層材料への応用も進め、変形エネルギーを効率的に電気エネルギーに変換し続けるMEMSの実現に取り組んでいく予定です。

本研究における役割分担は以下の通りです。

  • 三菱電機: HOPGの疲労特性評価、結果の分析
  • 京都大学: ナノ構造の物性に関する基礎研究

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